狂気マイナス零




 久しぶりに顔を合わせて、会話をした。それなのに、視線すら合わせてくれない彼に、涙すら滲む。
「じゃあな。」
「…うん。」
 涙声で必死にそれだけを口にする。
 ああ、今日も気づいてくれなかった…。
 俯き、声も上げずに涙だけを流す。
 こんなにも、涙だけをただ流す行為が得意になってしまったのだろうか。



「立花、もう起きなさい。
いくら春休みだからって、あんたダラダラしすぎよー。」
 深い夢にどっぷりと浸かり、幸せな気分だったのに、全て台無しだ。と、想いながらも、もう戻らないであろう、狼貴との幸せな日々。過去の記憶を夢に見るだなんて、なんて浅ましい人間のだろうかと思う。
「うっさいなぁ。」
 ブツブツと文句を言いながら、もう昼も過ぎているが、顔を洗い朝食を食べキッチンに行く。
― 面倒だし、トーストだけにしよう。
あー、これ食べたらコンビニ限定ティラミ買いに行こうかな。
 トーストにマーガリンを塗っただけのトーストにかぶりつき、牛乳で流し込む。
洗い物を流しに漬け、心の中で、お母さん後は頼んだ。と、無責任で他力本願な事を考えつつ着替え、外へ出る。


「――あ‥。」
 コンビニで目的のティラミスとミルクティ、チョコミントアイスを買い出ると、聞いたことのある声が耳につく。
やっぱりか、と思う。
「確か‥宮嶋さん…だよね?
…いいよ、もう私いらないからソイツあげる。
あ、狼貴。別れてあげるから、好きにしていいよ?」
 二人から何か、焦ったような声が聞こえるが、何も頭に入らず、さっき目に焼き付いた二人の手を繋いでる様子がチラチラと頭でチラつく。
 手を繋ぐなんて、何ヶ月前の事だっけ…。



「――立花。」
「なぁに、雪村君。
…ていうか、もう何の関係も無いんだから。そんなに、簡単に部屋に入って来ないでよねぇ。」
 内心、凄く焦っているが小さなプライドと虚勢心が口を動かさせた。
「……妬いた?」
「さぁ?」
 どうかしら、と呟き雑誌のページをまた1ページ捲る。
「…好きだよ。」
 馬鹿な期待が胸をよぎり、肩が揺れる。涙が溜まる。
「― 嘘。
彼女が好きなんでしょう…?」
「本気だよ。」
「嘘っ!私が手を握って欲しくて、必死に伸ばした手を払ったっ!…私が、貴方に無視されて泣いていたことにすら、気づかなかった…!」
 彼の何と無しに言ったであろう台詞に、たまらなくなり、涙が溢れ言葉も溢れる。
「……っ…!?ごめん。お前に別れよう。と言われてから気づいた。
……どれだけ、他の女を抱いてもお前以外いらない…。虫がいいけど、別れるなんて言わないでくれ…。」
 どうしてだろうか、他の女を抱いたと聞いたショックより、お前以外いらない。と言われた事の方が嬉しいだなんて…。
「― 馬鹿な女…。」
 自分にしか聞こえない程の大きさで声を出す。
 土下座をし、携帯を前に置いて謝り続ける彼に小さく笑みが零れ落ちる。
「……許さない。」
「何でもする!」
「………じゃあ、貴方の体も心も私に頂戴?」
 たっぷり時間を溜め、ニコリと笑んでやる。
 もう、私はどうやってもこの男から離れることが出来ないのだろう。と、思う。そして、この男もそうあるべきだと思うのだ。
「勿論だよ‥。」
 嬉しそうに微笑んだ彼に最高の笑みを向けた。



エンド…?



後書き
 たった数時間という、限られた時間で仕上げました‥ああ……クソだ…。
いいさ、こんなんが俺には似合いさ…。