嘘じゃないもん




あるところに、嘘つきの男の子がいました。
男の子が嘘つきなことは、その村では有名でした。
だってウソをつくと必ず

「山から狼がやってきたぞ! これウソじゃないもん!!」

「明日、偉い人がこの村の視察に来るって! ウソじゃないもん!」

と、『ウソじゃないもん』と付けてしまうから周囲にはバレバレです。
弟たちを格好良く庇っても

「その窓を割ったのはオレだから、叱るのはオレにしろ! ウソじゃないもん!!」

とすぐにバレてしまいます。
さて、なかなか憎めないこの嘘つきの男の子には、好きな女の子がいました。
小川のそばで本を読んでいる女の子に、男の子は毎日のように顔を真っ赤にしながら「嫌い」と言いに行きます。
その語尾につくのは「ウソじゃないもん!」と付くのはいつもの事。

「オマエの事、嫌いだからな! ウソじゃないもん」

「はいはい、ありがとう」

まだ寒いけど、そろそろ春めいてきた小川のそばで本を読む女の子は顔を上げずに答えます。
どうにかしてこっちを向いて欲しい男の子は、もっと大声で言いました。

「だ、大嫌いなんだからな! これウソじゃないもん!!」

ちょっと離れたところから見守る男の子の弟たちが「兄ちゃん、がんばれ」と小さくエールを送ります。
広場で遊んでいた村の子ども達は「あいつ、また告白してるぜ」と冷やかしの視線を向けました。
散歩中のおじいさんは「若いとはスバラシイ!」と笑っています。
女の子はパタンと本を閉じ、困ったように微笑みながら男の子に顔を向けました。

「嘘って解ってても、毎日『嫌い』って言われると悲しいね」

ようやくこちらを見てくれた女の子。
でも女の子の顔をみたら、男の子は走り去ってしまいました。
弟たちが「兄ちゃん、待ってよー」と言って追いかけます。
だんだん遠くなる男の子の背に「私は好きだよ」と女の子が言ったのは誰も聞いていませんでした。

(あんな顔、して欲しくないのに……)

家についた男の子は自分のベッドに潜り込むと、先ほどの女の子の顔が頭に浮かびました。
いろいろと話したい事があったけど、女の子の困ったような微笑みを見たら全て忘れてしまいました。
男の子は自分自身が嘘つきなことを解っています。
でも周りが受け入れてくれたので、ずっと嘘つきのままでいました。
しかし、好きな女の子にあんな顔をされるのは嫌です。
女の子が可愛く笑うのを男の子は知っています。

(オレ、アイツのために正直になる!)

決意を固めた男の子は、部屋からほとんど出なくなりました。
家からは一歩も出ません。
食事等の必要最低限のことをする以外には部屋から出てきません。
心配になった両親や弟たちがドアの前で聞き耳を立てていると、ときどき発声練習をしているのが聞こえます。
そんな日が一日、二日……一週間、二週間と過ぎていきました。
日にちや時間の感覚がなくなりかけていた男の子が、ある日突然部屋から飛び出してきました。
なにか言う家族をしり目に、男の子は外へと駆けていきます。
外はすっかり春でした。
男の子が籠る前と比べると、花がいっぱい咲いています。
いつもの小川に向かっている途中、女の子が本屋の前にいるのを見つけました。

「ッ……おい!」

「久しぶりだね、どうしたの?」

男の子が呼びかけると、女の子が笑みを作って顔を向けてくれました。
女の子の傍まで来た男の子は逸る気持ちを押さえられずに声を出します。

「す、す、す、すち」

「すち?」

一生懸命に練習した言葉を、男の子は噛んでしまいました。
女の子はハテナマーク浮かべながら首を傾げます。
グッと唇を噛んだ男の子は深呼吸をして、大声で言いました。

「好きだ!! ウソじゃ……」

危うく、いつもの言葉を言ってしまうところだったので、手で口を押えます。
口を押さえた男の子に、女の子は目を丸くしました。

「いつもの……言わないの?」

女の子に聞かれて、口を押えたまま首を振る男の子。
男の子は正直に伝えた想いに、きっと女の子が喜んでくれると思っていました。
でも、女の子は悲しい顔をしました。

「そう……そう、か……」

大きな瞳からはポロポロと涙が流れます。
想像していた光景とは違うので男の子は驚きました。

「う、嬉しくないのか?」

女の子が涙を拭いました。

「『嫌い』って言われて喜ぶほど悪趣味じゃないから」

「好きだって言ってんだろ!! これウ……」

男の子は再び口を押えました。
そんな男の子を見た女の子の顔は無表情になりました。
無表情でも、涙はポロポロ流れ続けています。

「キミがウソツキなのは知ってたよ。
 でも、今日みたいにな日にそんな嘘を言いにくるとは思わなかった」

踵を返して、女の子は去ってしまいました。
男の子はその背中を茫然と見つめています。

「な、なんだよ今日って……」

男の子は本屋の店内を覗きました。
カウンターに日めくりカレンダーがかかっているのを知っていたからです。
日めくりカレンダーは今日が“4月1日”と教えてくれました。

「え……エイプリール……フール?」

男の子は茫然としました。
すっかり日にちの感覚を忘れていたので気づきませんでしたが、今日は嘘をついてもいいエイプリールフールだったのです。
男の子はいつも嘘で「嫌い」と言っていたけど、今日は正直に「好き」と言いました。
でも正直に言ったはずの「好き」は、今日は反対の意味になるということで……。

「あああああああああああ!!!」

突然叫びだした男の子に、ちょうど追いついた弟たちがビクと体を揺らします。
そんなことお構いなしの男の子は、泣きながら歩いている女の子を追いかけます。

「違う! 違うんだ!! これはウソじゃない、ホントなんだ!!」

いつもの語尾とは違うけど、泣いている女の子には聞こえません。

「きっ、嫌いならもう構わないでよ!!」

女の子は振り返らずに早足で歩き続けます。
大好きな子の背中を追いかけながら、男の子はもう嘘はつかないと心の中で誓いました。

後の世に『最も正直な政治家』と呼ばれる男の、正直でなかった頃のお話。