運命のコイントス(46.緊張)




先の見えない暗闇の中、男は柱の影で息を潜めた。
手にはベレッタM92をモデルに作られたオリジナル自動拳銃。
幾多の危機を共に乗り越えた相棒だ。


「位置さえわかれば……」


生死をかけた闘い。
とあるマフィアに雇われた彼は、敵対しているマフィアの用心棒と一対一の勝負をしていた。
ここを越えれば、敵のボスにだいぶ近づけるのだが、そんな簡単には越えさせてくれない。
敵も、腕の立つ用心棒を雇い配置していた。
何度か撃ち合い、相手の得物がスタームルガーのブラックホークがベースの改造銃だとわかった。
ブラックホースは早い撃ちを得意とするため、撃ち合いとなれば速度で負けるかもしれない。

だから、勝負は一瞬。
相手に致命傷的な傷を与えなくてはいけない。

いつも以上の強敵に、男は胸元からコインを取り出す。
表も裏も同じデザインのされた、いわば不良品。
しかし男にとっては運命の女神に等しい物。
男は呟いた。


「表なら生き残る、裏なら死ぬ」


相手に位置を知られないよう、ごく僅かな動きでコイントスをする。
浮き上がったコイン。
その瞬間、銃声の音と共にコインは遠くへ弾き飛ばされた。
コインの落ちる甲高い音が遠くで聞こえ、近くでは三発の銃声がほぼ同時に聞こえる。
敵の銃はあきらかに男を狙っていた。
男の隠れていた柱をかすめ、背後の壁に穴をあける。
彼も負けてはいなかった。
銃声の位置から、敵の居場所が噴水の向こうとわかり、その場所を撃つ。
噴水のモニュメントを破壊し、水が飛び散った。

そのとき、二人は同時に飛び出す。
水のカーテン越しに、互いの頭を狙った。
揺れる水のカーテンに正確な位置を狙えているかわからない。

時が止まったかのように、二人の動きは止まっている。

隙を探りつつ、彼は相手の顔をみようとした。
水の向こうには細身の長身に真っ黒なスーツを着込んでいる白い顔が揺れている。
顔立ちまでははっきりと見えない。

いつでもトリガーをひけるように力を込めた。

そのとき、敵側のほうに銃声が聞こえた。
しばらくして「ボスが殺された!」と男達のダミ声が響く。


「こっちの負けみたい」


水のカーテン向こうで静かな声とともに、銃を下ろすのが見えた。


「無駄な命取りは止めにしませんか?」
「そうだな。 だったら、そのクイック・ドローの体勢をどうにかしてくれ」


ふう、と水の向こう側で溜息がしたと思うと、敵は銃を収めて手を広げた。
危険がないと判らせるかのように、腕を広げたまま水のカーテンを静かにくぐる。
現れたのは長身に胸のふくらみを押さえた黒いスーツの女性。
中性的な白い顔だ。


「女……なのか?」
「ええ、そうよ。 驚いた?」
「ああ。 あれほどの腕前だしな」


彼も銃を下ろす。


「女でも銃くらい使えるわよ」


彼女は腕を広げたまま、彼の前に立つ。


「依頼者が死んだから報酬はないだろうし、私は先に行くわね」


彼女は腕をおろして、彼の横を通る。
彼の耳に水の落ちる音に混ざって何か一言聞こえた。
その声はあまりにも小さすぎて本当に言ったかどうかはわからない。


「……また会おう、か」


暗闇に見えなくなる黒いスーツの背中。
ふと彼の視界の端に、何か光る物を見た。
それは先ほどコイントスして、彼女に撃たれたコイン。
表のデザインが車の光を受けて輝いている。
彼はコインを拾った。


「表なら彼女に再び会える、裏なら会えない」


少し表面がへこんだそれを投げる。

結果は、見なくてもわかっていた。



〜あとがき〜

銃に詳しくない銃オタです。
 オートマよりもリボルバーが好きです。
  スイングアウトよりブレイクオープンが好きです。