冬将軍到来 (49.軽蔑)




冬の日の入りは早い。
まだ四時を過ぎたばかりだというのに、もう辺りは暗くなってきていた。
生徒会室には、二人の男子生徒。
二年生副会長の洋平は、腰を90°に折り曲げた。

「会長お願いします!」

洋平の前では先輩であり、生徒会長の美月澄彦が腕組みをしながら座っている。
そして、澄彦が瞑っていた目を「クワッ!」と開いた。

「ダメだ! 俺の可愛い妹を嫁に出すわけには!!」
「だから、まずはお付き合いから……」
「ダメだ、ダメだ、ダメだ!! 学生の内から淫らな行為に走るなど言語道断!」

頑なに聞き入れない美月に、洋平はコッソリ溜め息を吐く。
有能な生徒会長にして、校内でも有名なシスコンである美月澄彦。
妹である澄香もブラコンとまではいかないが、兄と仲が良いから始末が悪い。
澄香と付き合いたい場合は澄彦の説得からしなくてはいけないのだ。

「俺は清く正しい交際を希望しています!」
「嘘をつくな。 男は狼なんだぞ!」
「……いつの時代の歌ですか?」
「と、ともかく! 俺の目の黒いうちは澄香との交際は許さん!!」

立っていた洋平は、座る澄彦の前に跪く。
まっすぐと彼を見つめ、ゆっくりと言った。

「美月会長。 俺は会長の演説を聴いて生徒会に入ることを決意しました。
 会長の右腕として今まで働いてきたつもりです」
「確かに。 洋平は俺の想像以上に働いてくれている。 しかし……」
「俺は、絶対に会長を裏切るようなことは絶対にしません」

夕日が完全に落ちたのか、野球部の照明が室内を照らす。
見つめ合う二人。
最初に視線をずらしたのは澄彦だった。

「本当に……本当に澄香を不幸にするようなマネはしないんだな?」
「はい。 当然です」
「そうか……」

澄彦が両手で洋平の肩を掴んだ。

「わかった洋平……いや、義弟よ!」
「美月会長……いえ、義兄さん!」

男達は“そのままの体勢”で熱く抱き合った。

「お兄ちゃ〜ん?」

一つしかない扉が開かれ、それと同時に電気がつけられる。
いつもの待ち合わせ場所に来ない兄を心配した澄香が、生徒会室まで迎えに来たのだ。
先ほどまで暗かった室内にいた男二人。
椅子に座った澄彦は、膝立ち状態の洋平の頭を抱えている。

「聞いてくれ澄香。 お前に大事な話がある」

興奮で紅潮した頬の澄彦が、洋平の頭を離した。
澄香は、扉を開けたまま固まっている。
しかし話しかけられた瞬間、とてつもなく寒い視線で二人を見ていた。
たとえるなら、シベリア寒気団並みの寒さ。
そのブリザードの吹き荒れている視線のまま、口だけニッコリと笑わせる。

「お兄ちゃん」
「どうした?」
「今日から、私は一人で帰るね」

一歩ずつ、後退していく彼女。

「あと、登校も私一人でいいから」
「ど、ど、どうしたんだ!? 兄ちゃんが嫌いになったのか!?」
「世の中には、そんな趣味の人達がいるのは知ってたけど、身内だとは……」

椅子から立ち上がった澄彦は、慌てて澄香に駆け寄ろうとする。

「こ、来ないで変態ッ!!」
「ヘンタイ!?」

大事な妹に変態扱いされた澄彦は、その場で崩れ落ちた。
その隙に澄香が暗い廊下を走って逃げていく。
何があったか解らないまま、洋平は男泣き中の澄彦の背中を見ながら考えた。


・暗い生徒会室
・男が二人
・片方は膝立ち
・片方は椅子に座っている


状況を想像すればするほど淫らな行為の真っ最中な雰囲気。
たとえ真実が違うとしても、そんな現場に見えてしまう不思議。

「……もしかして、俺も誤解されたのか!?」

澄彦が妹日記に「今日から反抗期」と紙を涙で濡らしながら書いている後ろで、洋平も崩れ落ちた。
冷たい生徒会室の床に座り込んだまま、どうやって誤解を解こうかと考えながら……。



〜あとがき〜
BL?
ベーコンレタスの略でしょ(笑)