人は見た目で損をする




車が行き交う駅前。アヤは恋人である黒木を待っていた。
21歳のアヤと、43歳の黒木は仕事柄、逢える時間が少ない。
今日は一ヶ月ぶりのデートである。

「……遅い」

時計を見るアヤ。時刻は9時半。待ち合わせを30分も過ぎてしまった。
まあ、いつものことだと思いつつ、アヤはため息を吐く。
43歳という年齢を感じさせないほど鍛え上げられた肉体を持つ黒木。
元ボクサーということもあり、常人とは思えない雰囲気を持っている。
さすがVシネマ俳優というべきか、危ない職業の人と思われてしまうことが多いのだ。
今日も、喧嘩を売られたか、警察に職質されているのだろう。

「もう、帰っちゃおうかな……」
「お前は恋人一人、待つことができねェのか?」
「ひィ!!」

背後から逞しい腕に抱きしめられ、アヤは悲鳴に近い声を上げてしまった。
力強く抱きしめられていたので、首だけで後ろを向くと革製の上下に身を包んだ黒木が立っていた。
黒のワイシャツの下に覗く金のネックレスが車の明かりを反射して輝く。
フェミニン系でまとめてあるアヤと並ぶと、なんて不思議な光景か。
周囲からの視線を感じたアヤは身を捩って黒木の腕から抜け出す。
そして黒木の正面を向いた。

「恋人に抱きしめられて悲鳴をあげるってどういうことだよ」

背後にある壁にアヤを押し付け、不敵に笑う黒木。
普通に笑っているはずなのに悪巧みを考えるように見えてしまうとは、なんと損なことだろう。
アヤは黒木の恐ろしい顔を見慣れているため、いつもどおりに返事をした。

「だって遅すぎるんだもん。 どうせ喧嘩か職質でしょ?」
「違う、酔っ払いに絡まれてた女を助けてたんだよ。
 って、お前……俺のこと、どう見てんだ?」

正義感が人一倍強い黒木。
しかし、外見が外見だけに良いことをしても損することが多い。
アヤにとっては、そんなところが黒木を好きになった理由なのだが。

「ん〜……舎弟を侍らせて、組を持っていそうな人?」
「もろ極道じゃねェか!!」

強い口調ながらも、年下の恋人とじゃれるように黒木はアヤの頭を抱きしめる。
そのとき――

「君。 ちょっといいかい?」

黒木の肩を叩く警官。
二人を囲むように、5人の警官がそこにいた。

「聞きたいことがあるから、そこまで同行を願いたい」
「はぁ……」

突然のことで黒木は素直にうなずく。
すると、アヤの腕を一人の警官が引っ張った。
警官は小さな声で言う。

「早く逃げなさい」
「え?」
「夜は危ないんだ。 この男は私達が抑えておく」


どうやらアヤは極道にナンパされて困っているように見えたらしい。
周囲の人々も心配そうにこちらを見ている。
黒木もそのことに気がついたのか、アヤに向かって声をかけた。

「アヤ、俺達は恋人同士だと言ってやれ!」
「はいはい。 女性を脅そうとしてもダメだよ」
「あ〜や〜……」

大柄な黒木を、警官たちは3人がかりで引っ張って行く。
取り残されたアヤは唖然としたまま見送ることしか出来なかった。
そのとき、携帯が鳴っていることに気がつく。
見れば黒木の高校の先輩であり、仕事の先輩である橘からのメールだった。

『黒木の携帯が繋がらないんだが、お前と一緒か?』

少し考えたアヤは、橘にメールを送り返す。

『一緒でしたが、黒木さんは今警察に連れていかれました。一緒に警察に迎えに行ってくれませんか?』

メールを送ってすぐに橘はアヤのところに来た。
そして警察に一緒に迎えにいったのは良かったが、やはり橘もVシネマ俳優。
その極悪人面で、よけいに事態を悪化させる結果となる。


「で、君はどこの組なんだ?」
「だから違うっていったんだろ!!」
「少し前に、君に特徴が似ている男が酔っ払いを殴ったとの通報があったのだが……」
「それは俺かもしれねェが……」
「ふむ。詳しく聞かせてもらおう」
「アヤっ! 早く来てくれ!!」


数分後に起こる混乱を知らぬまま、黒木は警察で取り調べを受けていた。



― 終わっとけ ―











あとがき
橘さんは、高校のときにやった演劇で黒木のことを「若」と呼んでから、今でも「若」と呼ぶ癖があります。
たぶん警察に入った瞬間に「若!!」と叫んでしまったのでしょう