仲間だった私達
主人が借金をこさえて一ヶ月。
新しい就職先が決まったローズは、最後の夜を仲間と過ごしていた。
生まれたときから一緒に暮らし、母が連れて行かれたときも一緒に泣いてくれた仲間達。
血の繋がりが無いなんて関係ない。
いつも一緒だった。
「ねぇローズ、貴女はどこに行くんだっけ?」
「北海道の牧場よ。就職ってよりも嫁ぐって感じかな……マリーの就職先は?」
「わたしは動物園」
主が起きてこないように小さな声で話す。
そばに座っていたマイケルおじさんは、真っ白な髪を揺らしながら夜風に当たっている。
マイケルおじさんは長年の経験により、警察のパレード要員になったらしい。
長い間、走り抜けてきたおじさんは、再就職先が決まった時
「やっぱ大人よりも、子供に喜んでもらえるほうがうれしいのぉ〜」と微笑みながら呟いていた。
この職場も悪いものではなかった。
しかし、同じ屋根の下に暮らす全員が、新しい環境に希望を抱いている。
たとえ仲間と離れ離れになったとしても。
「オレ、オレねっ!!!」
一番歳の若いピースが、話していたローズとマリーの間に割って入ってきた。
小柄な彼は、二人に潰されそうになりながら大声で話し出す。
「俺は食肉加工所に行くんだよ! どんな仕事なのかな!?」
「ピース! ちょっとは静かにしなさい!!」
「ちぇ〜……ローズが一番声がでかいじゃん」
ふくれっ面のピース。
周囲から静かな笑い声が漏れる。
「確かにローズの声のほうがち〜っとでかかったな」
「ピースの声が大きいのは元からだから仕方が無いわ」
「子供達が私達の元を離れるなんて心配ね」
「まぁ、儂等も就職先が決まってしまったんだ。子供達と別れるのは運命だとおもうんじゃな」
「我輩も寂しくなるであります。皆さんの護衛が生きがいであったのですが……」
「ドライの旦那の就職先はどこだい?」
「ローズ殿と同じ職場です! 現主人とあちらのご主人がご学友のため、職場を斡旋していただきました」
お父さん代わりのロコおじさん。
お母さん代わりのジュリおばさん。
心配性のマダム・ヴィオレ。
お髭がふさふさのウォンおじいちゃん。
いつも真面目に見守ってくれるドライさん。
みんな、歳も年齢も種族も違うけど、本当に家族のようだ。
まぶたの重くなってきたローズは仲間の声を聞きながら、幸せな気持ちで眠りに付いた。
明日。迎えに来るトラックの夢を見ながら。
* * *
「ローズ殿! ご息女は健やかにお育ちになっていますか!?」
懐かしい夢を見た次の日。
現在暮らす家で、護衛長となったドライが部下を引き連れやってきた。
数年前、新たな家に来たローズとドライ。
ドライは着任早々、泥棒を捕まえたことにより周囲の信用を得て護衛長となった。
ローズは3頭目の子供を先日産んだばかりだ。
「こんにちはドライさん。 ほらラベンダーご挨拶は?」
「こ、こんに、こんいちあ」
怯え怯え挨拶する子供に、ドライはニッコリと笑う。
白く光る八重歯が見えたせいか、ラベンダーは母親であるローズの後ろに隠れてしまった。
「どうやら我輩……嫌われているようですな」
落ち込むドライ。
この数年で白くなった毛まで元気がなくなった。
励まそうと落ち込む背中を擦るローズ。
そういえばピースも、最初の頃はドライに怯えていたなぁと思い出した。
「今日ね、前の家の夢を見たわよ」
「前の……マリー殿やピース殿の夢ですか?」
「うん。マイケルおじさん、ロコおじさん、ジュリおばさん……みんなで過ごした最後の夜の夢だったわ」
「それは、それは……懐かしいですな」
しみじみと呟くドライ。
ふと、「そういえば」と言わんばかりに顔を上げた。
「先週、マイケル殿を主人のテレビで見かけました!」
「本当!?」
「はい。警察のパレードで先陣切って歩く姿はまさに威風堂々!
ローズ殿にも、あのご雄姿をお見せしたかった!!!」
「へ〜……他のみんなも元気かしら?」
「風の噂では皆様お元気のようですよ。
主人の話によると、マリー殿もお子様をお産みになられたようで、子供の名づけ親募集とのことです」
遠くで主人の声がした。
隣の宿舎の移動を手伝って貰いたいらしい。
ドライの部下達が一声上げて、主人の下へと駆けて行く。
ローズも「ドライさん、お仕事頑張ってね」と見送ろうとした。
しかし、やけに暗い顔のドライはローズと扉を交互に見ながら声を潜める。
「あのですね、皆様お元気のようですが……ピース殿の噂だけは、我輩聞いていないのです。
さすがに心配になっていまして……」
主人の声がドライの名を呼ぶ。
ここに留まるのも限界のようだ。
「うん……わかったわ……ドライさん、早く行かないと怒られてしまうわよ」
暗くなったローズの顔を心配して、ドライは外から何度も振り返る。
そのたびにローズは彼を急かした。
ドライが見えなくなって、ローズは仲間を思い小さく溜め息をついた。
ずっと様子を見ていたラベンダーが、母親が悲しそうなのを見てか、傍に擦り寄る。
「あら、ラベンダー……慰めてくれるの?」
コクコクと頷く愛娘を見て、ローズは母親の微笑みでラベンダーの鼻を舐めた。
同じように舐めたことのあるピースを思い浮かべる。
仲間の中で一番小さかったピース。
朝になると、誰よりも早起きして仕事に取り掛かっていたピース。
「いつか自分も空を飛ぶんだ!」と言って皆を困らせていたピース。
「ピースったら……どこに行ったのかしらねぇ……」
冬の北海道に、寂しげな牛の声が響いた。
〜あ と が き〜
たぶんピース君は食卓に並んでいると思います。
鶏肉美味しいよ、鶏肉
冬は鶏鍋が一番美味しい季節だよね