これから始まる物語
幼馴染のアイツが帰ってきた。
高校卒業後、バイトで貯めたお金を使ってフラフラ旅にでたアイツ。
あれから4年した春にようやく帰ってきたらしい。
“らしい。”と言うもの、昨日の夜に知り合いから電話で教えてもらったからだ。
「どうして私には連絡一つくれないのよ……」
私は近所の海辺を歩いて呟いた。
時刻は朝と呼ぶには少し早いくらい。
太陽はまだ出ていないので肌寒い。
「ずっと帰って来るのを待ってるのに」
幼馴染とはいえ、高校卒業するときに恋人同士となった。
なのにアイツは……。
「もう、知らないんだかッ――!?」
波打ち際を歩いていたために、ぬかるみに足をとられた。
バランスを崩して海のほうへと倒れそうに。
しかし、誰かに後ろからグイッと引っ張られこけずに済んだ。
「相変わらず、お前は危なっかしいな」
高校卒業後でも変わらない笑顔で笑うアイツ。
ヘラヘラと笑いながら言った。
「ただいま」
「……おかえり」
膨れっ面で私は答えた。
そのほっぺをアイツは突いて遊ぶ。
そんな手を払いのけて私は抱きついた。
「どうして連絡くれなかったの?」
「だって、おれ携帯持ってないもん」
「公衆電話くらいあるでしょ!?」
「お前の声は直接聞きたかったんだよ」
背中に廻る彼の手が温かい。
「いろんなトコ見てきた。 今度はお前も一緒に来ないか?」
「今の仕事を捨てろっていうの?」
「おれが食わせてやるよ」
顔を上げるとやっぱり高校卒業後でも変わらない笑顔のアイツ。
ただ、少し違った。
「おれ、この雑誌のライターやってるんだ。 結構、評判良いんだぜ」
美しい風景写真と共に、彼の文章が並んでいる。
文の最後はこうだ。
『いつか地元に帰ったら、あの子を連れてここに行きたい。』
思わず、文と彼の顔を見比べる。
優しく笑って、彼は海を指差した。
「この雑誌の景色も、ここの景色も、全部お前と見て廻りたい」
太陽が昇り、薔薇色に染まる海。
二人で海と太陽を見ながら、彼女は小さな声で
「うん」
と言った。