まぁるい(12.暖かい)




「夏生まれだから、寒いのは嫌なの。」
初めて会ったとき、彼女はそんなことを言って笑った。
「僕は、冬生まれだから寒いのが嫌いです。」
そう僕が答えると、彼女は似た者同士ね。と言った。
彼女には彼氏がいたし、僕は彼女の恋人にしてもらうには幼すぎるようにも思えたけど、なにしろその日はとても寒くて、僕らは凍えそうだったのだ。
寄り添う以外、考えられなかった。

「ねぇ、房子さん。僕らが出会った時のこと覚えてる?」
「覚えてるわ。」

真っ白な裸のままで、房子さんはシーツにくるまって僕を見た。
僕は下だけジーンズを穿いてキッチンへ立った。

「お互い冬が嫌いだなんて、奇遇だなって思ったもの。」

冷蔵庫に甘いシャンパンが入っている。
房子さんの肩はまん丸で、なでるとツルツルしていた。
太っているわけではないけど、痩せているわけでもない房子さんの体はふくふくとしていて、どこもかしこも気持ちがいいのだ。
僕はシャンパンをマグカップへ注いで、彼女がくるまっているベッドへ向かった。

「マグカップー?」

不満げな声に苦笑で答える。

「だってこれしかないじゃない。房子さん買ってきてよ、おしゃれなやつ。」
「いやーよ。オシャレなんて、あいつじゃあるまいし。」

あいつ、というのは元彼のことで、房子さんの元彼は僕の学校の先生だ。
僕はパティシエになるために日夜勉強に励んでいる学生で、房子さんはそんな僕を支えてくれている。
彼女の職業は、よく分からない。
レストランでピアノを弾いたり、家でフランス語の翻訳をしていたりする。
それが仕事なのかと聞いてみると、房子さんは決まって、「趣味よ。」と答えた。
どこから収入を得ているのか、とてもその二つから得ているお給料では住めそうにもないマンションに住んでいる。
同棲しているのだから、家賃を半分払う、という僕に、学生は気をつかなくてよろしい。と断るのだった。

「あいつ、どうしてる?」
「べつに、変わらないよ。相変わらずよく分からないおしゃれ道みたいなこと教えてる。」
「ホント、相変わらずね。」

房子さんは嫌そうな顔をしてからマグカップへ口をつけた。

「どうして別れてしまったの?」
「恵ちゃんさ、それ、普通聞かないわよ。」
「気になるんだもん。だって、」
「年齢?」
「僕じゃ釣り合わない気がしてるんだ。」
「じゃぁ別れる?」
「絶対に嫌だ。」
「あたしも嫌よ。だって恵あったかいんだもん。」

まぁるい肩が少し震えて、恵。と呼ぶので、僕は房子さんを抱き込むようにした。

「あいつより恵のほうがあったかいから。」
「え?」
「だから別れたのよ。」
「それだけ?」
「とかいろいろ。」
「ふぅん。それじゃ、僕より暖かい人が現れたら、僕は捨てられちゃうってわけだ。」

房子さんが僕を振り向き、いたずらな笑顔で「そうかもね。」と言った。

「房子さんの意地悪。」
「ふふっ。嘘よ。あたし恵のこと結構好きなの。」
「本当?」
「うん。本当。ねぇ、冬が終わってもそばに居て。あたし、冷え症だから。」

僕は答えのかわりに抱きしめた。