おんなですもの





日曜日の昼、ドロドロな人間関係を描くドラマを見ていた。
『あなたを殺して私も死ぬ!!』
女は包丁を持って男と対峙している。
「うわぁ…あんな女にだけはなりたくないわ。」
誰もいないのに独り言を言ったら、憐れむように、いつもはうんともすんとも言わない携帯電話が突然に鳴った。
慌ててディスプレイを確認して出ると、そのとき世界中で一番愛していた彼が暗い声で言った。
『別れよう。…ほかに、好きな人ができたから。ごめん。』
一方的すぎて、私は戸惑ってしまい、とりあえず家に来てくれと約束を取り付けるのだけで精いっぱいだった。
夕方、彼はまるで誰か親しい人が死んだような暗さで現れた。
私はできるだけ静かに聞いた。
「なんで?何があったの?」
「電話で説明しただろ?あれが全部だよ。」
「全部って、…好きな人ができたって、アレ?」
「うん。」
「急に、そんなこと言われても、私、まだ好きなのに…。」
「…ごめん。ごめんな。」
彼は泣き出してしまったので、私はどうするすべもなく、ただ無言で彼の願いを受け止めざるを得なくなった。
でも彼は分かっていない。
謝られれば謝られるほど、彼ではなく私がひたすらにみじめだということを。
部屋へやって来てから帰るまで、彼は私を見なかった。
ずっと俯いていた。
混乱していた脳みそがようやく起動し始めたころ、外はいつのまにか雨が降っていた。
私はやっとの思いで頭に血を登らせ、割れても構わない皿を戸棚から数枚探し出した。
食パンについたポイントシールを集めてもらえるスヌーピーの平皿だ。
何故だか家にはそれが四枚ほどあって、使い道も特になく置き場所に困っていた。
それらをそれぞれ飛び散らないように袋に入れて床に投げつけた。
割れたって全然困らない、むしろ割れてくれたほうがよかった皿たちは、一枚も割れなかった。
からからと乾いた音で少しまわり、すぐに落ち着いた。
もし皿に口があったら、私はものすごく笑われていただろう。
「なにやってんだろ、私。」
振られて、謝られて、惨め極まりない私は、割ろうと思った皿も割れずにさらに惨めになった。
私は盛大な溜息をひとつ吐き出した。
「よしっ、」
長靴を履いて、傘をさして外へ出た。
雨は優しく降っていて、ゆっくり何かを洗い流すようにアスファルトを流れた。
道端にはアジサイが群生していて、ふっさりとして重たそうな頭をもたげて雨に打たれている。
ふと、彼を思い出した。
そっくりだ。
私を見ないように下を向き、泣いていた。
そっくりだ、本当に。
私は少し、いや、だいぶ、乱暴でいじわるな激しい気持ちに見舞われた。
急いで百円ショップへ走り、大きめのハサミを買って来るとすぐにアジサイの元へ戻った。
群れの中でも一番立派で一番きれいな青色をしているアジサイを、できるだけ花に近い場所で切り落とした。
ザクっといい音がして、ハサミに少し草の汁がつき、アジサイの頭はワサっと落ちた。
落ちて、動かなかった。
憎らしいだとか惨めだとか、彼を恨む気持ちも一緒に落ちてしまったように思った。
心が軽くなったから、私は笑おうと思って顔を動かしたのに、どうしてだか涙が出てしまった。
笑いたいような、悲しいような、変な顔をしていたと思う。


『あなたを殺して私も死ぬ!!』
ドラマにでてくる恐ろしい女のように激しい心を、私も少し持っていたのだ、と切り落としたアジサイの頭とハサミについた草の汁を眺めて思った。
もう一輪、ピンク色のアジサイを同じように切り落とす。
私の、恐ろしい女の部分を切り落とす。
ザクっと切れてワサっと落ちた。
二つのアジサイは、仲良さそうに寄り添っていた。