二人暮らし始めました





わし、進藤晴壱(せいいち)。職業、ミュージシャン。生まれも育ちも広島です。
恋人は今のところいません。浅く広くの友達なら結構います。
今住んでいるところは大都市東京。
一人暮らし、

でした。



「兄貴こんな大きい子ども居ったっけ?」
せっかくのオフを寝て過ごしていたわしの元に、広島の田舎で八百屋を継いだはずの兄貴がはるばるやってきている。
右横には俯いた少年。
兄ちゃんよぅ、結婚しとったっけ?
「阿呆ぅ!わしの子じゃないわっ」
「…そんじゃぁ、弟?母ちゃんたちも頑張るのぉ。」
「ド阿呆。どんだけ高齢出産なぁ!わしらがもう三十後半じゃで。」
「わしはまだ二十代じゃっ」
大きな声で反論すると、少年が驚いて顔をあげた。
なにかの衝撃を与えたら、コロンと落ちてしまうんじゃないかと思うほど目が大きい。
唇もぽってりとしている。進藤家は悲しきかな唇が薄いのだ。
よくわしもアヒル口じゃってからかわれる。
「こりゃぁまた、…明らかにわしらの血筋じゃない顔立ちじゃの。」
要するに可愛らしい。
「だから最初っからそうやって言っとろうが。この子はの、母さんの友達の子、らしいわ。」
「ふぅん…で?」
「で、なんじゃ、その、…」
いつもは何でも遠慮なく言う兄が言いよどむ。ちらりと少年に視線を流し、それに気がついた少年は切なげに丸い頭をうなだれた。
「なんね、もったいぶって。」
「いや、…本人の前で言いにくいんじゃけどさ、」
兄の手を握る小さな手に力がこもる。
次に発せられる兄の言葉に耐える準備をしているかのように見えた。
「その、両親は離婚して、母親に引き取られたんじゃけど、その母親も、…失踪、してしもうたみたいで。」
「はぁ!?」
ビクっと声に反応して小さな肩が飛び跳ねた。
わしはなんだか申し訳ない気分になって声のトーンを下げる。
君に声を荒げたわけじゃないんよ、って意味を込めて。
「そ、そんで?親戚は?」
兄は少年の手を離してそのまま耳をふさいだ。聞かせるような話じゃないってことだろう。
だったら最初っからそうしてやればよかったのに。
「たらい回しじゃ。…みんな厄介者扱い。そんで、見かねた母さんが引き取ってきたってわけ。」
「そんで、わしのところに連れてきた理由は?」
「経済的に余裕があるじゃろうって。」
そりゃぁね、まぁミュージシャンとして成功させていただきましたから。
小金持ちぐらいは名乗ったっていいんじゃないかとは思ってますけども。
「あと、年が一番近い。」
「いやいや。親子ぐらい離れとるから。」
「わしらの中での話よ。引き取ってくれんか?お前に断られたらホンマにこの子、行くとこなくてたらい回しどころの騒ぎじゃないんよ。」
「いや、引き取るのはええけどさ、その、本人の意見は?」
そう言うと兄は耳をふさいでいた手を離して目線を少年と合わせた。
「なぁ、あっくん。この兄ちゃんが面倒見てくれよぅるって。」
大きな目がわしをとらえて首をかしげる。
これ、わしが受け入れても、この子に拒否されたら意味ないっていうか、わし結構傷つく自信があるど。
「あっくんは、この兄ちゃんとこじゃ嫌か?」
「お兄ちゃんが、嫌だと嫌だ。」
「?」
わしが嫌々だと思うとるんじゃろう。なんと出来た子ども。
可愛らしいのは顔だけじゃなくって声も性格もって事が判明しました。
わし、子供の扱いはよぅわからんけど、このことならうまくいく気がするよ。
「ん?兄ちゃんは良いって言ってくれよぅるよ。」
「ホンマに?」
「晴壱、お前も言うてやれ。」
兄に呼ばれて少年に見上げられて、わしはそっと目線を合わせるためにしゃがみ込んだ。
朝から玄関の前で大人二人座り込んで少年を囲んでいると、これは不審に思われるんじゃないか?とか思いながら。
「わし、晴壱っていうん。あっくんの名前は?」
「あきひろ。おかのあきひろ。」
「うん、あきひろね。よろしく、の。」
「うんっ」
子供の笑顔って、無条件で癒される。
これもまた新発見。


東京って街はめまぐるしく変化してる。
ファション、音楽、メディア。
わし、そんなシビアな世界で一応生き残ってます。
順応能力は高いと思います。
恋人は今のところいません。
だけどついさっきから、


二人暮らし始めました。