上空二万マイル
「しぃちゃん綺麗じゃぁ…」
成人式の写真が、送られてきたのはつい先日。
静からの初めての手紙だった。
入っていたのはたくさんの写真と数枚のメッセージカード。
静が着ていたのは黒に白い藤の花の総柄の着物。
帯は金糸の刺繍。帯締めは赤。
髪は派手すぎず落ち着いた感じでまとめられていた。
「ほんま、綺麗じゃわ…」
わしはいそいそと写真立てへ写真を挟んだ。他の写真にはあまり
興味がない。
クリスマス会の写真もあったけれど、静の隣には久山君じゃなく
て、彼女の一番の友人である高山蒼伊ちゃん(たかやま あおい
)が映っていた。久山君と二人っきりで過ごすような感じの言い
かただったからかなり焦ったけれど、実際はクラス会だったよう
で安心だ。
「ユウジロー、ご飯だよ。」
「あぁ、じぃちゃん。今行くよ。」
「それは、ユウジローのガールフレンドかい?」
「そうだよ、じぃちゃん。静って言うんだ。綺麗でしょ。」
「あぁ。美しいね。やはり日本人が一番美しいね。」
じぃちゃんは、とても日本人が好きだ。
昔、日本人に恋をしたことがあると教えてくれたことがあった。
けれど相手にされなかったんだと。笑いながら教えてくれた。
「ユウジローがうらやましいなぁ。君は日本人だしね。」
「半分はイギリス人だよ。…恋の相手はどんな人だったの?」
「…貴族のお嬢さんだよ。」
私はね、ユウジロー。軍人だったんだ。
その女性はイギリスへ逃げてきた貴族の女性でね。
とある偉い人の晩餐会で出会ったんだけど。本当に美しい人でね
。決して英語をしゃべらなかった。あくまで日本語を話すんだよ
。私は彼女としゃべりたくてね。がんばって日本語を勉強したん
だけど、なかなかうまくいかなくて。第一、戦時中だったから、
あまりおおっぴらに話すこともできなかったんだ。
でも一度だけ話すことができた。
私は必死だった。
『お名前は?』
『…まず貴方が名乗るべきじゃないかしら。』
『失礼。私は、チャールズ・バイロン・マクシミリアンです。お
名前を教えて下さい。』
『藤堂百合ですわ。』
『ユリ、美しい名前です。』
『ありがとう。』
笑った時の顔は本当に、天使のようだった。
「それだけ?」
「そう。それだけしか話せなかった。彼女には婚約者がいて、彼
に呼ばれてその場を離れてしまったからね。」
じぃちゃんは静の写真を見ると、少し目もとが似ているなぁなん
て笑った。
*******
クリスマスに電話したときからもうだいぶ経つ。
あれから結局静は一度も電話に出てくれなかった。
ドキドキしながらコールを聞くと、ほんの少し緊張気味な声が「
なんか用?」と言った。
「しぃちゃん、この間は…、その、ごめんね。」
『別に。女の子とのクリスマスパーティーは楽しかった?』
「あの子は、大学の友達で、何も関係ないんよ。ホンマに。わし
、…しぃちゃんしか好きじゃない。」
『うん。…でも楽しかった?』
「それなりだった。でもやっぱりしぃちゃんとこ帰ったらよかっ
たって思った。」
『…ウチはねぇ、楽しかったよ。みんなに会えたし。』
「そ、そっか。」
『みんなで裕くんの話しよぅたよ。』
「え、」
『逢いたいね、って、話しよぅた。』
「…」
『裕くん?』
「ごめん、今日はちょっと、切るね。またかける。」
『え、ちょ、裕くん?』
わしは電話を切ってすぐに荷物をまとめた。
それからじいちゃんの部屋へ駈け込む。
「じぃちゃん、僕と一緒に日本に行こう!」
「なんだって?」
「だから、日本に遊びに行こう!」
じぃちゃんはニヤリと笑うと、yes!とガッツポーズをした。