青天に辟易
青天の霹靂だ。
「県内の大学じゃなんいん?」
「その、つもりじゃったんじゃけど…」
大きなキャリーバッグを持って、裕次郎が家に訪ねてきた。
小さいころに二回ぐらいしか会ったことのない彼の父親も、優しい笑みを浮かべ、「ユージローはネ、イギリスの大学に編入すルことになったンダよ。」と外人特有の訛りで言った。
「ごめんねぇ、静ちゃん。急な話じゃったもんじゃけぇウチらもバタバタしょぉったの。直前になってしもうて。」
彼の母親は早口でそういった。有無を言わせぬ迫力が、私に少し苦手意識を持たせる。
「だって、でも、一緒の大学…」
「うん。」
「約束、しょぉったのに」
「すまん、の。しぃちゃん、わし、」
「ユージロー、時間ダよ。」
父親にせかされて、裕次郎は手帳に何かを書きなぐって破った。
「これ、わしの連絡先。国際電話はお金かかるけぇ、手紙とかメールとか送って!わしも手紙送るし、…」
「Yujiro, hurry!!」
「waits for a moment, and goes soon!」
流暢な英語を話す彼は別人のようで、私はひどく置いていかれた気持ちになった。
「それじゃ…行くね。」
車に乗り込む裕次郎を見ながら、私は手の中で彼がくれた連絡先を握り締めた。
連絡なんてしてやらない。
彼からかかってきた電話も取らないし、メールも返してやらない。
そう思って握り締めた。
反動のように涙が出た。
走り去る車に、
「裕次郎のアホゥ。バカバカバカバカバカ。」
口の中で小さく叫んだ。
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逃げるように空港へ向かい、僕は抜け殻みたいに飛行機に乗り込んだ。
「なにいつまでも落ち込んどるの。しっかりしんさい。」
「もう終わりじゃ。もう駄目じゃ。絶対嫌われた。」
「女々しい子じゃね!男の子じゃろっ」
「カナ、仕方ないヨ。ユージローのgirlfriendだったんダロ?しかもあの子はカナぐらい可愛い子だカラね。結婚する前のボクらと一緒サ。ボクもイギリスに言っている間、君が他の奴に取られやしないか不安だった。ユージローの気持ちは痛いほどわかるヨ。」
「だったらウチは静ちゃんの気持がよぅわかるわ。日本人の、広島の女見くびらんでほしいもんじゃ。そんなにやわにはできとらんわ。」
「(しぃちゃんは母ちゃんと違って図太く出来とらんのじゃアホゥ。)」
両親の遠回しないちゃつきに突っ込みを入れられるほど僕に気力はなく、遠のいていく日本をぼーっと眺めた。
最後、僕の連絡先を書いた紙を握りしめて泣いた、彼女の姿だけが浮かんでは消えていた。
〜END〜