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其の日はたまたま仕事がなかった。
其の上、朝から嫌な予感がしていたのだ。
最初は目覚めだった。
大して用事もないのに定時にはっきりと覚醒して。
二度寝が出来ないほど綺麗さっぱり眠気が吹き飛んでいた。
しかも、うっすらと曇りがかった空にしてはやけに暖かい風が吹いていて。
尋耶はひっそりと眉を顰める。

「…嫌な感じ」

ダメ押しは卵だった。フライパンに割り入れた途端、二つの黄身が転がり出る。

「お、ラッキーじゃんね」

不意に声がした。
気配もなくひょいとフライパンを覗き込んだ少年に、尋耶は危うくフライパンの柄を握り直す。
幸か不幸か、まだ中身はきちんとフライパンの中にあった。

「おい、朝飯駄目にするとこだった」
「えー俺のせい?」

尋が驚いてひっくり返す訳無いぢゃんね?−ムゥと頬を膨らめた少年を気にせず尋耶は朝食の支度を続ける。

「お前に攻撃するために決まってる。稚垂」
「漢字呼びしないで欲しいなー」
「不可解だな。意味が解らない」

すっぱりと言い捨てて席につけば、当然とばかりに背もたれを前にして向かいに座った少年は肩を竦めた。

「俺はチタルだって云ってるぢゃんね」

稚垂って堅苦しいすぎー−背もたれに置いた腕に顎をのせ、少年-チタルは尋耶を見遣る。

「どうでもいいと思うんだが」
「えー」

不機嫌そうに眉根をよせたチタルに、尋耶はすぅと目を細めた。

「今日は何の用だ、わざわざ死神が御出向きとは」
「仕事のついでー」

にやっと笑い、チタルはどこからか取り出したものを机にのせる。

「エゼス経由で、尋に仕事依頼」
「廻逝司?」

其れは掌に入るくらいの一枚のカード。
描かれていたのは空を横切る一羽の白鴉。
それを見た途端、尋耶の眼付きが鋭くなる。

「なんのつもりだ」
「心配しなくても、報酬は払うけどー?」

それとも不可能?−悪戯っぽく笑うチタルに、尋耶はふんと鼻を鳴らした。

「馬鹿にしてる」
「まっさか」

にっこりと笑って、チタルは音もなく立ち上がる。

「報酬はそのうちねー」

まったねー−ひらひらと手を振ってあっさりと出ていく疫病神に、尋耶は心中で思い切り悪態をついた。

「二度とくるな」




「二度とくるな」

空気に溶けた声を拾って、チタルはくすくすと笑う。

「本ト、人間て楽しませてくれるしー」

あいつと大違いぢゃんね−思い浮かべたくもない天敵を思って出して、チタルはぱっぱとそれを打ち払った。
そして舒に歩き出す。

「さぁて、仕事しよーかね」