キレイゴトを口にしながら
キレイゴトと蔑んだりして
キレイでいたいと思いながら
キレイなんて有り得ないと信じていて
キレイなことは
キレイなのかと
純白はキレイに似て
けれど
けれど
純白は飾られるだけのキレイの中で
解き放たれた純白は消え失せるだけ
キレイを望みながら
純白に憧れながら
嗚呼
気づけば漆黒に手を染めて
溺れ往くその闇色の花に
(「忘却の城の日記」十章より抜粋)
泣けない夕 泣かない朝
「逝って、しまったのですか?」
私は気付かなかった。
彼の所に来ていたことを。
あの人のことを知るのが彼だけで、私は他の誰の前でも泣けないから、此処に足が向いてしまった事を悟った。
立派な門構えの屋敷。
彼はどうしてか門の前にいた。
きっと彼がそこにいなければ、私は廻れ右をして家に帰っていた筈だ。
総てを一人で抱え込んで。そしてきっと・・・
ぽつりと紡がれた私の名前に、私は顔をあげられなかった。
門の向こうには彼の家族がいる。
迷惑は、かけられない。でも
「泣いていいですよ。あいつは、泣かせてくれなかったでしょう」
ふわりと包んだ暖かさが私の塞きを押し流した。
あの人は最後まで、暖かさをくれなかった。
暖かさを持てない自分を、あの人は最後まで戒め続けていた。
だから、あの時だけだ。
暖かさも冷たさも感じられない手が瞳から雫を払って、あの人は。
「解っていたのに。あんな事をすれば、自分がどうなるかくらい」
「それでも。貴女を護りたかったんですよ。あいつは」
人の家の前でも憚りもせず泣く私を、彼は疎みも邪険にもしないで、ただそばについていてくれた。
どんな噂がつくかも解らないのに。
「ごめんなさい。ごめんなさい。他の誰の前でも泣けないから。あの人のことを話せないから」
「気の済むまで泣いて下さい。わたしは此処にいますから」
私は狡い。彼の好意を、こんな風に。
「忘れなくて良いです」
忘れなくて良いんですよ−落ちて来た言葉が、私の涙を優しく拭った。
「それで良いですから、そばに居させて下さい」
言葉の意味が解らなくて、私は涙が止まった瞳に彼を映す。
「え?」
「狡いことは解っています。貴女があいつの事を好きなことも十分に。でも、此処にいないあいつのかわりに、貴女の側にいることを許して下さい」
彼の瞳は真剣で。それからいつものように照れたように笑った。
「わたしもあいつの事は忘れませんよ。忘れたくても、忘れられません。あんな恰好良い奴、中々いませんから」
優しい人。この人を好きになれたら、幸せだろうとずっと思っていた。
けれど、私には出来なかった。
あの人だけ。あの人だけだったから。でも
「ありがとう」
私は囁くように呟いた。
いつかこの気持ちが過去になったら、彼の気遣いを素直に受け取れたら良い。
あの人は私が笑っていることを何よりも望んでいてくれるのだから。