誰もしらない王国の話






地図にも乗っていない小さな国に、幼い王様が立ちました。
王様は、お城の大広間で、王様だけが座れるふかふかの椅子に座っていました。

王様の前には、じぃと兵隊さん、家庭教師の先生がいました。
「王様。おめでとうございます」
じぃが嬉しそうに云いました。
けれど、王様はあまり嬉しそうではありません。
「じぃ、どうして王様が必要なのだ?」
王様が聞きました。
じぃは目を丸くしました。
「何を云うのです」
「王様などいなくとも、皆が畑を耕して暮らせば良い」
「いいえッ王様は必要です」
兵隊さんが慌てて言いました。
「どうしてだ?」
「え?」
「私は威張るためだけにいる王様になんてなりたくない。何のために、王様は必要なのだ?」
王様の哀しそうな問いに、三人は首を捻りました。
暫くして、先生がいいました。
「王様がいなければ、皆が自分の仕事が出来ないからです」
「どういうことだ?」
王様は首を傾げましたが、兵隊さんは感心したように頷きました。
「そうですよ。王様がいるから国はあるのです」
「王様がいるから?」
「王様が国のために働いてくれるから、土地があるのです。王様がこの国のことを考えてくださるから、
皆は自分の仕事だけに集中することが出来るのです」
王様はびっくりしたように目を瞬かせました。
じぃも確かに、と頷きました。
「だ、だがそれなら何故皆が働かぬのだ?働かなくとも生きてゆけるものもいるのか?」
また王様は聞きました。
王様はいつもお城から街を眺めていました。
街には、働いて汗だくになっている細い人と、のんびりとした太い人がいました。
「どうして働くものが細く貧しいのだ?」
じぃが困ったように目を伏せました。
「それは、この世界が廻っているからです」
「廻って?」
王様は驚いたようにいいました。
「そうです。だから貧しい者は生きるため、お金を稼ぐために働くのです」
兵隊さんの言葉に、王様は慌てて言いました。
「わ、私がお金をあげたらどうだ?」
兵隊さんは静かに首を振りました。
「王様、お金は人を幸せにするとは限らないのです」
王様はそれを聞いて淋しそうに「そうか」と呟きました。
王様は確かにお金持ちでしたが、友達と呼べる者はいませんでした。
王様は自分が不幸だとは思いませんでしたが、幸せだとも思いませんでした。

カシャン

兵隊さんが担ぎなおした鉄砲が、不意に音を立てました。
「私は、武器は嫌いだぞ」
王様はそれを見てきっぱりと言いました。
「武器は要らない」
「し、しかし、もし攻められたら」
じぃや兵隊さんが不安そうに言いました。
「戦いは嫌いだ。皆そうだろう?それなのにどうして戦うのだ!?」
王様の問いに、三人は答えられませんでした。


次の日、じぃ達は街に立て札を立てました。
『何故戦うのか。知っているものは城まで』
立て札を読んで、人々は首を捻りました。
聞きたいのは人々も同じでした。
本当は誰も、戦いなんて望んではいなかったからです。


二日たっても、三日たっても、お城には誰も来ませんでした。


そして七日目。
一人の旅人が、お城の門を叩きました。


「お前は知っているのだな?教えてくれ。何故人は戦うのだ?」
「平和を求めるから」
旅人は穏やかに言いました。
「平和?それは戦わないことではないのか?」
「平和が欲しいから強くなる。強くなって、廻りから守ろうとする。
大切なものがあるから、他より上であることを望む。それが戦い」
旅人の言葉に、王様は焦ったように言いました。
「では、皆が武器を捨てたら」
旅人は淋しげに笑いました。
「それでも何処かに奥の手を隠すのが人間。
先の先まで安全に装備する。
大切なものがあるから。
守りたいものがあるから。
だから、いつまでも果ては無い。
だから、いつまでも終わらない」
王様は解らないというように頭を抱えました。
「平和のために、武器を持つというのか?」
旅人は静かに頷きました。
「守るため、戦わぬために刃を持っても、それが戦いを招く。
決して切れない、連鎖」


旅人は答え、そして去って行きました。


王様は深々と椅子に身を沈め、目を閉じました。