其れが答えだというのなら
僕たちは只、彷徨いながら世界を動いていくしかない
其れが運命だというのなら
僕たちは只、与えられた役の中で生きていくしかない
其れが意味だというのなら
僕たちは只、果てのない荒野を歩き続けるしかない

そしてまた

今日も螺旋は廻っていて
途切れることなく輪廻を繰り返す

僕たちは逃れる術のない“場所”にとらわれ続けている



風車、廻る。運び出す、風





聴こえるはずのない声が聴こえる。

其れに気づいたのは、あの日から三日たった日のことだった。


「どうかした?」
「−いや」

問いに、一瞬躊躇ってから首を振る。正直云えば口にしたい。自分一人に閉じ込めておくには其れは重かった。けれど同時に、口にするのが怖かった.ただの平凡な人間だったときは其れを憂えていた筈なのに、いざ非凡になってみると、以前の自分がどんなにか良かったことを思い知る。

―耳を塞いだって無駄だよ―

「一体何?昨日からおかしくない?」

紡がれた言葉にはっと我に返る。大方大仰に顔を顰めていたのだろう。

「ん」
「もう上がれば?あたし今日終わりだし代わるわよ」

ひらひらと手を振られて、迷ったが結局頷いた。

「悪いな、理瀬」
「別に良いってば。気をつけて帰りなよ、玖呂」
「ああ」

制服を手早く脱ぐと店を出る。町外れの飲食店だ。別にバイト料が良い訳でもないのに、何故か長々とバイトを続けていた。ウエイターの仕事が好きなわけでもない。ただなんとなくずるずると続けて今日に至る。でも、もう無理かと思った。

―いつまで目を背けたままでいるのさ―

「−」

―現実を受け入れなよ―

「−さい」

―解ってるはずでしょ―

「うるさい!!」

―次は逆切れ?全く―

「うるさい!!うるさい!!うるさい!!」

一気に吐き捨てると喉が痛くて、息が苦しくなった。
道の向こうから来た犬を連れた女の人が驚いたような視線を向ける。
其の視線から逃げるように、町外れの森に駆け込んだ。

「最悪だ―」

心臓はドキドキバクバクしているし、絶対怪しい人に見られたし、森の中は暗いし、バイト代は落ちる。

―いい加減認めてよ―

ずるりと木の幹に座り込むと、呆れたような穏やかな声が届いた。

「認められるか、馬鹿」

何だかもう叫ぶのも馬鹿らしくて、呻くように呟いて顔を膝に埋める。小さな頃に良くこうして隠れていたことを今更ながら思い出す。そう、そんなときは決まって

―慰めてあげたのにさ―

「は?」

思わず声を上げていた。無視しようと決めていたはずなのに

―見つけにくい所に隠れるくせに、誰も来ないとべそべそ泣き言云って。散々宥め賺したね―

笑う声。蘇るのは、


『皆僕のことなんてどうでも良いんだ。だって』
『探してるよ。声がする』
『嘘だッ』
『何で嘘つくのさ。面倒臭い。ほら、早く帰るよ』


「お前・・・」

―ようやく思い出してくれた訳?―

空気の弾けるような音が眼前で響いた。

「!?」
「久しぶりだね、玖呂」

透き通る羽。掌に乗るほどの小さな体躯。真紅の髪。
不意に現れたのは御伽噺に出てくる妖精のような姿をした少年で。
それは、幼い頃唐突に姿を消した友人だった。