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  都奇譚〜12月20日〜
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「栗済ます?」
「…何だか発音が違う気がするんだけど、玻璃さん」

眉を顰めた透に、キョトンと首を傾げてみせる。

「違いますか?」
「うん。何て言うか、玻璃さんの口からは外国語は出てきそうにないし」
「外国語なんですか」

ほうと頷くと、透が困ったように笑った。

「行事が好きなのよね、日本人は」

基督聖誕祭、大晦日、初詣−指折りあげて、息を着く。

「基督教に仏教、神道」
「そこに神道はおかしくないですか?」
「あ、そうかも。神道は宗教じゃないと思うし」

でも、どうなのかな−うーんと腕を組んで透は目を細める。

「確かに神道は布教や伝道をしないし、他の宗教を拒絶しない。寧ろ概念としては他の宗教に上位を譲ってる」

それなのに日本人の根底には神道がある−考えを纏めるように呟く透を見ている内に、知らず唇が弧を描いていたらしい。

「日本は宗教の混在と云うより…って、玻璃さん。何笑ってるの」

ムゥと睨まれて、慌ててぱたぱたと手を振った。

「違いますよ。良く考えてるなぁと思いまして」
「…まだまだ。今日も教授に不勉強と云われるし」

しゅんとする透に、漸く概要を理解する。
本来なら透が来るのは明日のはずだったから。

「お休みは明日からでしたよね?」
「そう。でも課題が書き直しになったから」

ごめんなさい、明日は来られないの−残念そうに透が呟いた。
明日は冬至。
透が練習で染めた染和紙を譲った知人が透も夕食に招待したいと云ったので、一緒に出かける事になっていた。
何でも、南瓜の料理を振る舞ってくれるらしい。

「何の課題ですか?」
「授業のレポートで、広題は"トコヨ"なんだけど」
「常世、或いは常夜、ですか」

ほうと頷けば、透はこくりと頷いた。

「私は、"トコヨ"と色について纏めてるの」
「色?」
「うん。白と黒を生と死と考えて。常世国は不老不死の国と考えられていて、沖縄のニライカナイと同一視される。けれど一方で常世国は死人の国、黄泉に当たるから。これがもし、同じものを指すのであったら、死者は歳を取らず、二度は死なない、と考えることができるし。トコヨは常なる夜にも通じ、常世の長鳴鳥が鶏を示すことから…あ、ごめんなさい」

つい、熱くなっちゃって−しゅんと視線を下げた透の頭を苦笑して撫でる。

「気にしないで下さい。私が聞いたんですから。それに、それなら書けそうじゃないですか」
「そんなこと」
「光と闇の対比論を白と黒と考えたのでしょう?」
「でも、それだけだと論が弱くて」
「常世の長鳴鳥を出したんですから、神代と絡めては?」
「神代と?光は天照大御神。闇は…あ。天岩戸ッ」

ぽんと透が手を打つ。

「天照大御神と天岩戸。それなら常世信仰が太陽信仰だとしても、死の国と繋がるかも」

ぱっと顔を輝かせて、透が視線をあげた。

「玻璃さんありがとう。これなら明日の朝には提出できそう」
「そうですか。それは何よりですね」

あの人が貴女に会うの、楽しみにしてますから−気をつけてと手を振れば、また明日と透が笑顔で駆けていく。

「何だ。仲良くなってるな」
「びっくりさせないでくださいよ」

唐突な声。振り返らなくても、声の主は解る。

「気付かないとは思えないが」
「お久しぶりです、幻鈴堂さん」

視線を向ければ、漆黒の着流しに羽織りを纏う青年が無造作に何かを眼前に突き出した。

「はい?」
「届けものだ」

広げた手に乗せられたのは利休の風呂敷。
落ち着きがない中身に首を傾げると、小さく彼が笑った。

「柚子だと。明日は冬至だろ」

明日会うなら、あの娘にもやれば良いさ―肩を竦めた彼にそうですね―そっと頷く。

「ありがとうございます」
「伝えとく」

ひらひらと手を振る背中を見送って、ふと空を仰いだ。
空が茜から藍に変わるにつれて、風が冷たくなっている。
1番長い夜の前の日にも夜はゆっくりと近づいていた。